東京地方裁判所 平成6年(行ウ)343号 判決 1996年3月28日
原告
エスエムシー株式会社
右代表者代表取締役
高田芳行
右訴訟代理人弁護士
小倉隆志
被告
中央労働委員会
右代表者会長
萩澤清彦
右指定代理人
舟橋尚道
同
猪瀬愼一郎
同
朝原幸久
同
田中貞久
同
小林英隆
被告補助参加人
関東化学・印刷・一般労働組合
右代表者中央執行委員長
上野嘉一
被告補助参加人
関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部
右代表者支部長
飯島和弘
右参加人ら訴訟代理人弁護士
奥川貴弥
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、補助参加によって生じたものを含め、原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告が、中労委平成三年(不再)第五一号事件について平成六年九月七日付けでした命令を取り消す。
第二事案の概要
一 東京都地方労働委員会(以下、「都労委」ともいう。)は、被告補助参加人関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部(以下、「参加人支部」という。)が原告(以下、「会社」ともいう。)を被申立人として申し立てた都労委平成二年(不)第六四号事件のうち団体交渉拒否に係る部分及び被告補助参加人関東化学・印刷・一般労働組合(以下、「参加人関東労組」といい、参加人支部と合わせて「参加人ら」又は「参加人組合」ないし「組合側」ともいう。)が原告を被申立人として申し立てた都労委平成二年(不)第六八号事件について、別紙一のとおりの主文の救済命令(以下、「初審命令」という。)を発した。
これに対する原告からの再審査申立て(中労委平成三年(不再)第五一号事件)を受けた被告(以下、「中労委」ともいう。)は、同再審査申立てを棄却する旨の別紙二(略)のとおりの命令(以下、「本件命令」という。)を発した。
本件は、原告が本件命令の取消しを求めた事案である。
以下においては「年」の記載を省略したものは、平成二年を示す。
二 前提となる事実(以下の事実は、末尾に証拠を掲げたもの以外は、いずれも当事者間に争いがないか、当事者が明らかに争わない事実である。)
1 原告会社は、肩書地に本社を、埼玉県草加市に九か所、他五か所に工場を置き、空気圧機器、自動機器等の製造・販売を主たる業とする会社で、従業員数は約五〇〇〇名である。
2 参加人関東労組は、主たる事業所が関東地方に所在する化学、印刷、一般等の業種の企業に従事する労働者及び労働組合をもって組織する労働組合であり、組合員数は約一万二〇〇〇名である。
3 参加人支部は、六月八日午後二時三〇分ころ、草加第一工場に赴き、加藤正男生産統括部長(取締役)(以下、「加藤部長」という。)に対し、参加人関東労組と連名で、五月二八日に参加人関東労組のエスエムシー支部が設置され、役員として飯島和弘支部長(以下、「飯島支部長」という。)ほか一四名が選任されたことを通知した。
4 参加人関東労組の役員と飯島支部長は、六月八日、原告に対し、参加人関東労組と連名で、同月一三日を開催希望日として、次の九項目を議題(以下、「六月八日要求事項」という。)とする団体交渉の申入れをした(<証拠略>)。
(1) 平成二年夏期一時金(賞与)要求について
(2) 夏期有給休暇(三日の付与)について
(3) 適正な時間外(残業)及び休日労働の協定
(4) 厚生施設の充実(食堂の設置)について
(5) ユニオン・ショップについて
(6) 組合事務所及び組合掲示板設置について
(7) 労働組合費の天引きについて
(8) 統一労働協約への参加について
(9) 関東地方中小企業生産性労使会議への参加について
5 これに対し、原告は、同月一二日、参加人らに対し、右団体交渉申入れについて、「期末決算業務、株主総会準備作業等が輻湊して日程の調整が困難なため」との理由で右開催希望日時に団体交渉を行うことはできない旨回答し、その延期を申し入れた(<証拠略>)。
6 加藤部長は、同月一四日、参加人関東労組の峯村常任顧問及び岸本友重副書記長(以下、「岸本副書記長」という。)に対し、「組合規約は複雑でよく分からない。また支部の独立性があるのかどうか分からない。団体交渉には協定がつきものだが、少人数の組合と組合員固有の問題でなく、会社全従業員に関する労働条件について協定をしてもしかたがないので、話合いで参考意見として聞きおくこととする。」と述べ、事務折衝の名目で、話合いを株主総会終了後の七月三日午後六時に行うことを告げ、右峯村らはこれを了承した(<証拠略>)。
7 参加人支部は、六月二二日頃、「来る七月三日団体交渉(話合い)が開かれる。」との見出しで、「会社は、労働組合の立場を認め、七月三日に団体交渉を開くことになりました。」と、また、「目に余る不当労働行為(法律で禁止されている)に対し厳しく抗議し反省を求めた。」との見出しで、「支部を結成以来、わたくし達は連合(八〇〇万名)→全化同盟(一二万名)→関東労組(一万二千名)の指導のもとに秩序ある行動をしてきましたが、中間管理職は、仕事中に一人一人呼びつけ『組合を作る前になぜ相談してくれなかったか』『どうして組合に入ったのか』『組合に入っているので責任ある仕事は与えられない』『今のうちに組合を抜ければ助けてあげる』など目に余る不当労働行為をしてきました。これに対して六月一九日、二〇日の両日、飯島支部長、長沢書記長は関東労組本部の人を交え加藤部長、広沢部長、佐々木課長に強く抗議し、このようなことをさせないよう要請しました。それでもなお、この様な状況がつづくならば、上部団体の仲間の支援をたのみ、あらゆる対抗手段をとっていきます。また、社長及び行為した者に対し労働委員会(労働組合法違反を処罰するところ)へ不当労働行為で提訴、裁判所へ訴訟をおこすことも考えています。」と、さらに、「釜石に新工場建設、一〇月に移(ママ)動し大移(ママ)動が予定されています。」との見出しで、「釜石の三・三万平方メートルの敷地に新工場が建設され、一〇月に稼働の予定になっています。今、職場の中では、誰が行くのか心配でひそひそ話が始まっています。普通の会社では、これほど大規模の工場移転の場合は一年、二年前から移(ママ)動する人に知らせ家族を含め心の準備、生活の準備をさせています。」などと記載したビラ(支部ニュース)を配布した(<証拠略>)。
8 同年六月二九日午後六時から七時まで、草加市稲荷コミュニティセンターにおいて、原告と参加人組合との間で第一回事務折衝が開かれた。出席者は、組合側から岸本副書記長、飯島支部長及び長沢久晴支部書記長(以下、「長沢支部書記長」という。)であり、会社側から加藤部長、広沢武夫製造第一部長(以下、「広沢部長」という。)、佐々木好之事務課長(以下、「佐々木課長」という。)、竹内事務課課長代理(以下、「竹内課長代理」という。)であり、折衝内容は、次のとおりである。
冒頭に組合側から、労働組合の設立趣旨について、職場を明るくして不安のない会社づくりをすること、春闘、一時金の要求を行い、労働条件の向上を図ることにあるとの説明がなされた。また会社側から、参加人関東労組の支部でなく、エスエムシーの組合ではだめなのかとの質問がなされ、組合側は、「社内だけの労使関係はよくない。会社側に組合をつぶされたり、御用組合になり本来の組合のありかたとは違うものになりがちだから。」と答え、参加人らの組織系列について、参加人関東労組は、全化同盟(一二万人)の中の組合で、上部には連合(八〇〇万人)があり、組合の中で法人格を持っているのは参加人関東労組だけであり、しっかりとした合同組合である旨を述べた。また、会社側から、合同組合は個人と団体を合わせたものをいうのか、原告会社は参加人関東労組の組織対象の業種のうちいずれに当たるのかとの質問がなされ、これに対し、組合側は、「個人でも団体でも加入できる。参加人関東労組は、化学、サービス、一般、窯業、製版、印刷、薬粧、ゴム・プラスチックの八つの業種別部会があり、エスエムシーは、一般に入る。」と答え、参加人関東労組の専従は、大山隆二中央執行委員長(当時)、細野書記長、峯村常任顧問、岸本副書記長であると告げた。
次いで、会社側は、六月八日要求事項に関し、組合員が何人入っているか分からないのでは給料天引きはできないと告げたのに対し、組合側は、組合員名の公表について、「七月三日にお互いの理解が深まり、統一労働協約を結んで労使の関係がうまくいき、本部が出てこなくてもよくなれば検討する。」と答えた。このとき、会社側は、七月三日については、会社側は団体交渉のつもりではなく、お互いの前進のための話合いにしたいと述べたのに対し、組合側は、話合いでは何も決まらないので団体交渉で正式に決めていくとの態度を示したうえ、会社側が係長、班長を使って参加人組合のチェックをしているのは、不当労働行為である旨の指摘をした。(<証拠略>)
9 七月三日午後六時から七時一〇分まで、前同所において、原告と参加人組合との間で第二回事務折衝が開かれた。出席者は、組合側から参加人関東労組の峯村常任顧問、細野書記長、岸本副書記長、参加人支部の飯島支部長、同じく石原副支部長、大場副支部長、辻本支部執行委員ら四名であり、会社側から加藤部長、広沢部長、佐々木課長、竹内課長代理であり、折衝内容は、次のとおりである。
冒頭に、会社側から、「参加人関東労組をよく理解していないので、事務折衝をして団体交渉にもっていきたい。今後会社側の窓口は、加藤部長、広沢部長、佐々木課長、竹内課長代理の四名になる。会社は、参加人組合を理解していないから、早く理解できるように事務的な話をしてお互いの理解を深めていく。」との説明があった後、参加人関東労組が今年ストライキを行ったのかを質問し、組合側は、「参加人関東労組は、賃金関係より不当労働行為でストを行うほうが確率的に高い。実態を調べ、話合いをしても分からない場合、本部が決めてストを行う。」と答えた。
次いで、六月八日要求事項に関し、組合側は、一時金(賞与)は、今回は計算が終わっているので、次回から会社の業績に応じた要求で、本部である程度指示し決めていきたいと述べ、会社側は、夏期休暇については、すでに八月一三日から一五日間(ママ)の三日間与えており、食堂については、第一工場の技術系がいなくなれば作る旨を述べた。
そして、組合側から、職場での不当労働行為はトラブルが起きているのでやめてほしい旨の要望が出されたのに対し、会社側は、「他社で、組合があったため実績が上がらなかったものもあった。エスエムシーに今まで組合がなかったことが望ましくすばらしいことだと思っている。」などと述べた。(<証拠略>)
10 七月六日頃、参加人支部は、六月二九日及び七月三日に会社と話合いをもった旨及びその内容等を記載したビラ(支部ニュース)を配付した(<証拠略>)。
11 七月二五日午後六時から七時まで、前同所において、原告と参加人組合との間で第三回事務折衝が開かれた。出席者は、組合側から参加人関東労組の岸本副書記長、参加人支部の飯島支部長、石原副支部長、大場副支部長、辻本支部執行委員ら五名であり、会社側から加藤部長、広沢部長、佐々木課長、竹内課長代理であり、折衝内容は、次のとおりである。
まず会社側は、「会社は、今非常に忙しい。このような話合いを行う時間ももったいない。要求事項に関する話合いは進められない。製造第一部六課に不満があるのなら検討しよう。賃金については他社に比べて特に低いと思わない。準社員制については一三年以上勤務している人は無視できないだろう。社内でのビラ配付は本社と検討するが、おそらくいい返事は期待できない。」と説明し、六月八日要求事項に関し、食堂については社内で料理するようになると公害問題も出てくるので給食業者を入れようと思っているが、掲示板の設置は認められないと述べた。
右事務折衝において、組合側は、原告会社から個別に脱退勧奨を受けることなどを懸念して組合員数の発表をしなかった。(<証拠略>)
12 八月二二日午後六時から七時一五分まで、前同所において、原告と参加人組合との間で第四回事務折衝が開かれた。出席者は、組合側から峯村常任顧問、岸本副書記長、飯島支部長、長沢支部書記長、大場副支部長、金子支部執行委員ら三(ママ)名であり、会社側から加藤部長、広沢部長、竹内課長代理、上村事務課員であり、折衝内容は、次のとおりである。
冒頭に、会社側から、「組合は、ビラ配りの際には事前に連絡するといっていたのに連絡せずに行った。紳士的でない。製造第一部六課の職場会議を行っているにもかかわらず、定時と同時に席を立つものがいた。大変失礼である。」との指摘があったのに対し、組合側は、「ビラ配りの際、事前に連絡するといったのは、会社内でのビラ配りを会社側が許可してくれた場合であり、会社外での場合は連絡の必要はない。会議中に席をはずしたのは申し訳なく思っている。」と述べた。
次に組合側から、現在、駐車場使用者から月額二〇〇〇円を徴収しているが、どのように使われているのかとの質問がなされ、会社側は、駐車場使用料は、一般の駐車場を借りている者に補助として支給するつもりだったが、本社の許可が下りないので、当面は雑収入の中に入れている、と答えた。
そして、組合側から、「草加第二工場が筑波工場に移転するようだが、異動する人の待遇についてはどう考えているのか。」との質問がなされ、会社側は、「九月から一部が異動するが、現在シリンダー関係の生産が間に合わないため、在庫づくりが思うようにできない。受注対応でいっぱいである。工場移転もいつになるか見通しがつかない。異動する際の待遇は考えている。」旨を答えた。
そして、組合側は、社内でのビラ配付を前向きに考えるよう要望し、また、中間管理職が「組合を脱退しろ」と動いているが、今後このような行動をとっていると、なんらかの手を打つことになる旨を告げたのに対し、会社側は、「事務課では知らなかった。徹底してそのようなことをしないようにいってある。早急に調査する。」などと答えた。(<証拠略>)
13 参加人関東労組及び同支部は、一〇月一九日、連名で会社に対し、(1)平成二年年末一時金(支給額・配分・支給期日)に関する件、(2)草加第二工場移転に関する件を議題とする団体交渉を、一一月一日を開催希望日として申し入れた(右のうち、(2)草加第二工場移転に関する件についてのものを、以下、「本件団交申入れ」という。)(<証拠略>)。
14 これに対し、原告は、一〇月二二日、右団交申入れについて、中間決算業務等が輻湊して日程の調整が困難であることを理由に、右開催希望日時に団体交渉を行うことはできない旨回答した(<証拠略>)。
15 参加人支部は、一〇月二四日頃、草加第二工場の従業員に対し、「工場移転につき何かと心配があると思う。近日中に会社と話合いをする予定でいる。そのためアンケート調査を行うので協力願いたい。」と記載したアンケート調査紙を配布した。同調査紙には、(1)筑波移転についてどう思うか、(2)現在の遠距離手当二万円は満足か、(3)遠距離手当は最低どれくらいの金額なら満足できるか、(4)筑波に行く場合、通勤時間はどれくらいになるか、(5)通勤できない場合、入寮するか、(6)寮は現在二人部屋だが、満足か、(7)臨時雇の社員は、筑波の従業員への指導が完了後、どこへ配置されるか心配しているか、等の質問事項と回答欄の記載があった。
同日、原告会社は、右アンケートが、あたかも草加第二工場の全員を異動対象としているかのようであるので無用の混乱・動揺を生じ、また、これが構内に持ち込まれ、勤務時間中に回答記入されるとして、右アンケート調査紙を回収し、これを参加人支部の長沢支部書記長に返却した。(<証拠略>)
16 飯島支部長及び長沢支部書記長は、一〇月三〇日、佐々木課長から、「加藤部長からもう団体交渉はやらないといわれた。もしやるんだったら、前の事務折衝のように、窓口である佐々木君がやればといわれた。」と告げられた。
17 参加人支部は、一二月一日、原告会社の右対応が団体交渉拒否に当たるとして、その他の支配介入の排除を求める申立てと併せ、(1)原告は、参加人支部がした本件団交申入れに速やかに応じること、(2)右履行状況について都労委に文書で報告すること、(3)陳謝文を掲示することを求め、不当労働行為救済申立てを行った(都労委平成二年(不)第六四号事件)。
また、参加人関東労組も、同月二六日、原告会社の右対応が団体交渉拒否に当たるとして、右同旨の不当労働行為の救済申立てを行った(都労委平成二年(不)第六八号事件)。
18 本件救済申立後の経過は、次のとおりである。
(一) 参加人支部は、平成三年一月二五日頃、「まだそんな会社があるの?」との見出しで、「第一回の労働委員会の審問では、会社側・組合側双方の状況説明を行った。組合側の説明の時、残業時間平均五〇時間くらい、低賃金(基本給)といった労働条件・賃金及び参加人組合に対する嫌がらせについて話したところ、『まだ、そんな会社があるの』といってあきれていた。」等と記載したビラ(以下、「一月二五日ビラ」という。)を配付した(<証拠略>)。
(二) 参加人関東労組及び同支部は、同年三月六日、連名で会社に対し、平成三年度賃金水準引上げに関する件を議題とする団体交渉を、同月一九日を開催希望日として申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同月一一日、参加人関東労組に対し、「(1)従来どおり事務折衝の名目での話合いを行う。日時・場所は追って連絡の上決定する。(2)参加人支部は、この度都労委で『独立した組合ではない。』と自白したので、会社は、話合いの相手としても承認できない。もっとも参加人関東労組より話合いの権限委任を受けたことを証明できるならば、話合いに参加するのを拒むものではない。(3)会社側参加者は、佐々木課長を中心とする。」旨回答した(<証拠略>)。
参加人関東労組は、同年四月一九日頃、「春闘!今年の賃上げ勤務給、一人平均一五、〇〇〇円要求する。」との見出しで、二回の事務折衝をもったが金額回答なし等と記載したビラを配付した(<証拠略>)。
(三) 参加人関東労組は、同年五月三一日、会社に対し、再度、平成三年度賃金水準引上げに関する件を議題とする団体交渉を申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同年六月五日、「(1)平成三年四月一五日の事務折衝で、岸本副書記長から『一月二五日ビラは私が書いた。その責任は私が取る。』との発言があった。(2)都労委において飯島支部長も、『支部名義のビラは、全部岸本副書記長が作成したもので、支部長らは一切関知していない。』と証言した。また右飯島証言では、ビラの配付も岸本副書記長の指示に基づいて行われていることが明らかになった。(3)団体交渉申入れについては、岸本副書記長が謝罪文を提出した場合は事務折衝出席を認め、提出がない場合でも同人を除いた事務折衝の名目での話合いを平成三年六月一〇日行うので、それまでに岸本副書記長の態度を明確にされたい。」との回答をした(<証拠略>)。
(四) 都労委は、平成三年八月六日付けで、都労委平成二年(不)第六四号事件のうち団体交渉拒否に係る部分及び同六八号事件について、別紙一のとおりの主文の初審命令を発した。原告は、平成三年九月二〇日、初審命令を不服として、被告に対し、再審査申立てをした(中労委平成三年(不再)第五一号事件)。
(五) 原告会社は、平成三年九月二〇日、参加人らに対し、「草加第二工場のシリンダー部門に組合員がいるかどうか。いるとすればその組合員の氏名を一〇日以内に書面で回答するよう求める。回答のない場合は組合員がいないものと理解せざるを得ない。」旨の申入れをした(<証拠略>)。
これに対し、参加人関東労組は、同月三〇日、原告会社に対し、シリンダー部門に一一名の組合員がいるが、氏名については現状の労使関係では明らかにすることはできない旨回答した(<証拠略>)。
(六) 参加人関東労組及び同支部は、同年一一月五日、連名で会社に対し、(1)平成三年年末一時金に関する件、(2)受注減に対する生産体制に関する件、(3)組合広報ビラの構内配付に関する件を議題とする団体交渉を、同月一八日を開催希望日として申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同月一四日、「(1)会社の存念は、平成三年六月五日回答書のとおりである。(2)都労委での長沢証言によれば、一月二五日ビラの作成には支部執行委員全員が関与していることになるので、支部執行委員全員の謝罪文の提出を求める。右提出がない限り、事務折衝の名目での話合いにも応じられない。」旨回答した(<証拠略>)。
(七) 参加人関東労組及び同支部は、平成四年三月二日、連名で会社に対し、平成四年度賃金水準引上げに関する件を議題とする団体交渉を、同月一四日を開催希望日として申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同月一〇日、「(1)岸本副書記長及び支部執行委員全員の謝罪文の提出がない限り、事務折衝の名目での話合いにも応じない。さらに謝罪文の早期提出を要求する。(2)団体交渉開催希望日である三月一四日は土曜日で会社休日である。このような非常識な団体交渉申入れは、形式的なものであり、当初から団体交渉しようとする気持ちがないことの証左である。」旨回答した(<証拠略>)。
(八) 参加人関東労組及び同支部は、平成五年七月二二日、連名で会社に対し、初審命令の履行に関する件を議題とする団体交渉を、同年八月九日を開催希望日として申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同年八月四日、参加人関東労組に対し、「今頃何のためにこのような申入れをするのか理解に苦しむので、申入れの理由ないし必要性につき改めて文書で詳細説明を要望する。」等と回答した(<証拠略>)。
(九) 被告は、平成六年九月七日付けで、同再審査申立てを棄却する旨の別紙二(略)のとおりの本件命令を発し、同命令は、その頃原告に送達された。
19 参加人関東労組及び同支部は、本件命令発令後の平成六年一二月九日、連名で会社に対し、本件命令の履行に関する件を議題とする団体交渉を、同年一二月二〇日を開催希望日として申し入れた(<証拠略>)。
これに対し、原告会社は、同月一三日、参加人関東労組に対し、「右協議事項についての団体交渉は不必要である。それでもなお団体交渉が必要だというのなら、その理由を文書で詳しく説明して下さい。」等と回答した(<証拠略>)。
三 争点
1 参加人関東労組が労組法二条にいう「労働者が主体となって組織する団体又はその連合団体」に当たるか。
2 参加人支部が独立した労働組合といえるか。
3 本件団交申入れに対する原告の対応が、労組法七条二号所定の不当労働行為(団体交渉拒否)に当たるか。
四 当事者の主張
(被告)
被告の認定事実及び判断は、別紙二(略)の本件命令書記載のとおりであり、本件命令に誤りはない。
(原告)
1 争点1について
(一) 労組法二条は、同法にいう「労働組合」とは、「労働者が主体となって組織する団体又はその連合団体」であると規定する。同規定の文字解釈からは、労働者個人とその組織する団体を同時に組合員とするいわゆる混合組合は導き出されない。むしろ、混合組合といった極めて複雑怪奇な組織体は、法の予定するところではないといってよい。もし混合組合を予定していたのなら、わざわざ「連合団体」といった規定をすることなく、「労働者の組織する団体」とすれば足りる。混合組合を労組法上の労働組合であるとするのは、文字解釈、文理解釈の枠を逸脱したもので、類推解釈というほかなく、かかる類推解釈は、罪刑法定主義の趣旨に反し、使用者に不利である。
(二) 初審命令(本件命令もこれを引用)は、混合組合も労働者が主体となって組織されたものであると判断するが、混合組合の組織の主体は、「労働者」にあらずして労働者の団体とみるのが正しい。また、混合組合が労組法二条の「団体又はその連合団体」に該当し、団体と連合団体の双方に同時に該当するといったことは、そもそもあり得ないことである。
2 争点2について
(一) 本件命令は、参加人支部が支部としての規約を有していると判断しているが、右規約は、参加人関東労組のあてがいで、支部員の意向を全く反映しておらず、独立した規約といえないのであって、規約がそもそも独立したものといえないから、支部の組織も当然独立したものといえない。このように、参加人支部は、独立した規約も組織も持たないから、参加人関東労組から独立した行動をとったことはない。したがって、参加人支部が独立の組織を持って運営しているとした本件命令には事実誤認がある。
(二) 本件命令は、組合費について一部組合員の未納分を支部役員が負担し、かつ参加人関東労組の支援があったとしても、これとは独立して支部の財政を営んでいると判断するが、財政にかかわる以上、会計に関する帳簿を前提として具体的金額によって支部の財政を論じなければ、独立して支部の財政を営んでいるかどうかは分からない。しかるに、右帳簿もなく、また具体的金額も明らかにされないままで、右のように判断するのは事実誤認というほかない。
(三) 本件命令は、支部が参加人関東労組の運動方針を支持し、これに基づいて行動すること自体、労働組合の独立性を何ら妨げるものではないと判断するが、右「支持」が成り立つには、支部員の自由意思の介在が不可欠である。しかし、参加人支部員と参加人関東労組の関係は完全な上命下服の関係で、支部員は、参加人関東労組の運動方針を嫌応なく鵜呑みにさせられている。
(四) 参加人支部が独立性を有しないことは、団体交渉の申入れをみれば、最も明瞭である。支部員は、参加人関東労組の作成した申入書を窓口である草加第一工場所在の事務課に届け出るだけの役割しか果たしていない。支部は、参加人関東労組の単なるメールボーイにすぎないのである。
3 争点3について
(一) 本件団交申入れの議題は、単に第二工場移転に関する件とあるのみで、一体何をどのように交渉するのか分からない。このような議題では誠実な団体交渉申入れとはいえず、原告会社に団体交渉義務は発生しない。
本件団交申入れは、第二工場移転に関する件とあるのみで、どうしてこの議題での団体交渉が必要なのか全く分からない。まして、この申入れに先立つ八月二二日の第四回事務折衝で、たまたま組合側から右議題に関連する質問があり、会社は、草加第二工場の一部門であるシリンダー製造部門のそのまた一部門であるCQ2という製品製造部門の従業員中、リーダー的な者だけを筑波工場に移転させると説明しているのであるからなおさらのことである。つまり、参加人組合が異動対象者である右リーダー的な者に該当する組合員の存在を明らかにしなければ、団体交渉の必要性が明らかにならない。それにもかかわらず、一向に明らかにしないので、これまた誠実な申入れでなく、原告会社はかかる申入れに対する団体交渉義務を負担しない。
(二) 原告は、第二工場移転に関する件については、すでに八月二二日第四回事務折衝で話し合っているので、それ以上どのような話合いをする必要があるのか見当がつかなかったが、原告は、事務折衝の名目で話合いをする旨回答しており、申入れを拒否してはいない。そして、次のとおり、会社と参加人組合との間で、事務折衝の名目で、会社からすれば話合い、参加人組合からすれば団体交渉を行うことの合意(団体交渉ルール)が成立していた。
会社は、六月八日、組合結成通告とともに団体交渉申入れを受けた。しかし、まず参加人組合の実体が判然としなかった。組合員名簿提出がなかったから、結成された組合の規模が不明だったし、上部団体と結成された支部との関係もあいまいだった。また、団体交渉事項も団体交渉に値すると思われるものはなかった。したがって、原告会社は、六月八日要求事項については、団体交渉義務の存在に強い疑念を抱いたが、さりとて何もしないのもいかがなものかということで、団体交渉ではなく話合いをしたいと参加人組合に回答した。しかるところ、参加人組合は、話合いも団体交渉も同じであるから早くしてもらいたいと応じた。ここに、要求事項につき、事務折衝の名目で、会社からすれば話合い、参加人組合からすれば団体交渉を行うことで合意が成立した。
この合意を受け、六月二九日、七月三日、同月二五日、八月二二日と四回にわたり話合いが行われた。話合いの中身は、四回とも参加人組合の実態と要求事項についてであった。そして、要求事項については、すべて決着がついている。
(三) 原告は、本件団交申入れに対し、第四回事務折衝ですでに話し合っているので、それ以上どんな話合いをする必要があるのか見当がつかなかったが、団体交渉はしないが、事務折衝はする旨回答した。前記合意を前提とすれば、原告が団体交渉を拒否した事実は存在しない。事務折衝が行われなかったのは、参加人らが、右合意に反し、事務折衝をしようとせず、いきなり本件救済申立てに及んでしまったからであり、原告には責任がない。
(参加人ら)
1 原告が団体交渉を拒否する正当な理由はない。事務折衝は、あくまでも団体交渉の事前折衝で団体交渉そのものではない。参加人らは、原告が団体交渉を拒否するため、やむを得ず、事務折衝に応じたものにすぎない。
団体交渉とは、双方が譲歩を重ねつつ合意を達成することを主たる目標とするものであるが、本件で行われた事務折衝は、原告会社側から一方的に説明がなされ、簡単な意見表明がなされるにすぎず、とうてい団体交渉とはいえないものである。第四回事務折衝で、参加人らは、第二工場の筑波移転に伴う異動対象者の待遇について問いただしたが、原告会社の回答は、全く具体性がなかった。
2 参加人らは、一〇月一九日、本件団交申入れをしたが、原告会社は、その申入れを拒否した。仮に原告会社が、事務折衝に応じるとの回答をしたとしても、団体交渉を拒否することを前提としたものであり、事務折衝は、団体交渉とは異なるものであるから、団体交渉に応諾したとはとうていいえない。しかも、原告は後に事務折衝すら拒否した。その理由は、参加人らが一月二五日ビラを配付したところ、そのビラが名誉棄(ママ)損に当たり、謝罪文を提出しないからというものである。
3 なお、原告は、草加第二工場の異動対象者に組合員がいるかどうか明らかでないというが、草加第二工場の従業員の相当数が筑波工場に転勤し、組合員にも転勤した者がおり、第二工場のみならず、飯島支部長の勤務する第一工場にも異動対象者がいることから、草加第二工場移転に関する件について団体交渉をする必要性があった。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 参加人関東労組は、昭和五一年三月一日に関東化学・印刷・一般労働組合綱領・規約を施行したが、同規約には、四条で「本組合は、主たる事業所が関東地方に所在する化学・印刷・一般等中小企業に従事する労働者及び労働組合をもって組織する。」と、五条で「本組合は、各企業または事業所ごとに支部を設置する。」と規定されており、同条に基づいて設置された参加人支部の作成した規約には、二条本文で「この支部は、関東化学・印刷・一般労働組合規約五条にしたがって、会社の従業員、またはこれに準ずるもののうち、関東化学・印刷・一般労働組合の組合員をもって組織する。」と規定されており、参加人関東労組は、個人加入と団体加入のいずれも認める、いわゆる混合組合(合同労組)であることが明らかである(<証拠略>)。
2 証拠(<証拠略>)によれば、参加人関東労組は、約一万二〇〇〇名の組合員を擁し、法人格を有する労働組合であるが、上部の連合団体である全化同盟(組織人員約一二万名)、及びさらに上部の連合団体である連合(組織人員約八〇〇万名)に加盟しており、その傘下の組合として、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること等を目的として労働組合活動を行っていることが認められる。これによれば、参加人関東労組は、労組法五条二項所定の規約を有し、組織的・経済的に使用者の支配干渉を受けることなく、労働者が主体となって自主的に組織した労働組合であることが明らかであり、同法二条の規定にも適合しているということができる。
そうすると、参加人関東労組が個人加入と団体加入のいずれも認める混合組合であるからといって、格別の弊害があるとも考えられず、救済申立資格を否定するのは相当でなく、同労組は、労組法二条本文にいう「団体又はその連合団体」に当たるものとして、救済申立資格を有すると解すべきである。
二 争点2について
1 参加人支部の規約、組織について、以下の事実が認められる。
(一) 前記に認定判断したとおり、参加人支部は、参加人関東労組の綱領・規約五条に基づいてその下部組織として結成された労働組合であり、その規約は、支部の目的及び事業、組合員の権利・義務、機関、役員、統制、会計等について具体的に規定し、労組法五条二項の規定に適合している(<証拠略>)。
(二) 参加人支部の規約三条には、参加人支部は、参加人関東労組の綱領・規約、宣言、主張及び決議のもとに、支部員の生活と社会的地位の向上をはかり、相互の連帯性を強化することを目的とするものと定められており、同規約四条には、参加人支部は、(1)労働生活条件の維持改善向上に関すること、(2)労働協約の締結改善及び普及徹底に関すること等の事業を行うものと定められ、同規約五条には、右(1)の事業のうち重要な事項、右(2)の事業及び争議行為については参加人関東労組の指示に基づいて行うものと定められ、また、同規約三二条には、支部員の権利の一時停止及び除名は大会の決議に基づき参加人関東労組の承認を得るか、または参加人関東労組の大会又は中央執行委員会の議を経て直接行うものと定められているほか、同規約一一条以下には、支部の事業報告、運動方針、予算及び決算を大会に付議し、所定の組織・権限をもって活動するものと定められている。
(三) 参加人支部は、五月二八日、原告会社の草加第一、第二、第三工場所属の従業員によって結成され、組合員数は、結成当時は二五名であり、最多時には約三一〇名を数えたこともあったが、平成三年四月二四日頃には、約七〇名に減少した。支部の結成当初の役員は、支部長が飯島和弘(製造第一部六課所属)、副支部長が石原敏行(同一部同課所属)、大場亮(同部同課所属)、内田勇(製造第一部二課所属)、書記長が長沢久晴(製造第一部六課所属)、会計が大串繁(同部同課所属)、会計監査が山田、坂岸、執行委員が鈴木明(製造第一部一課所属)、金子、辻本、市原、小林、阿出川(事務課所属)であり、事務折衝に出席した組合員として大曽根、中山、堀江、新井、小野田、堀江(事務課所属)、八角、古谷がいた。また、参加人らは、前記「前提となる事実」18のとおり、平成三年九月頃、草加第二工場製造第一部二課シリンダー部門に一一名の組合員がいるが、現状の労使関係では、支部組合員の氏名を明らかにすることはできないとしていた。(<証拠略>)
(四) また、参加人支部の会計の状況については、参加人支部の規約三四条には、「支部の経費は、組合費、臨時組合費、寄付金その他の収入をもってまかなう。但し、寄付金の受領については執行委員会の議を経なければならない。」と、同三五条には、「組合費は、一か月正支部員一名につき(基本給月額の二パーセントプラス本部費)とする。準支部員は一か月一名につき基準月額の一パーセントプラス本部費とする。前項の基準月額は、契約時間単価に契約時間を乗じたものに二〇を乗じたものとする。」と、三七条には、「会計は、常時財産目録及び会計帳簿を整備し、支部員はいつでも閲覧することができる。」とそれぞれ定められている。参加人支部は、六月二二日頃配付したビラ(支部ニュース)で、「皆さんからの組合費は、組合運営のための大切な財源です。」との見出しで、「支部の組合費の基準は、一三八〇円(本部費)+基本給(本給+勤務給)の二パーセントです。本部費一三八〇円というのは、支部から関東労組へ、関東労組から全化同盟へ、全化同盟から連合へと納め、わたくしたちを指導するための費用、色々の情報とか新聞を作って組合員に知らせるために使う費用です。基本給の二パーセント分は、支部内部で組合活動をするための費用(組合活動したときの賃金補償、大会を開いたときの費用、各種会議費用、支部の新聞、研修会費、青年婦人活動、レクレイション費等)に使われるものです。」と記載し、その使途について説明していた。そして、六月八日要求事項には、組合費の天引きについても含まれていたため、原告会社は、同月二九日の第一回事務折衝において、「組合員の人数が分からなければ、組合費の天引きはできない。」旨表明した。そこで、参加人支部は、結成当初、組織力が弱いために規約どおりの組合費の徴収がままならず、参加人関東労組からの財政的支援及び支部役員が各自一か月三〇〇〇円ずつ拠出して支部の財源としていたが、一二月一日、一般組合員に対しても、社員・準社員については一か月二〇〇〇円、パートについては一〇〇〇円の組合費を納入するよう呼びかけるビラを配付した。(<証拠略>)
2 右に認定した参加人支部の規約の存在・内容、組織及び会計の状況、及び前記「前提となる事実」に認定した同支部の活動状況に照らせば、同支部は、争議行為等一部の重要な活動や組織統制について参加人関東労組の指示に服する面はあるが、なお、労組法上具備すべき要件を満たす自らの規約を有し、別個に代表者・役員を定め、決議機関・執行機関等を有するなど、労働組合としての組織の自主性及び財政の独立性を保ち、独自の活動を行っていたものといってよい。その後の組合費納入状況や財産目録、会計帳簿の存在・記載については明らかでない。
原告は、参加人支部の規約が参加人関東労組の支部規約準則そのままであることや、原告会社に対する団体交渉申入れに参加人関東労組の副書記長らが関与したこと等をもって、参加人支部には独立性がないと主張するが、右認定事実によれば、参加人支部の組合員らは、参加人関東労組の支部規約準則を自らの規約として承認・制定したものということができ、また、支部規約上、労働協約の締結には、参加人関東労組の指示を得ることが必要であるとされているのであるから、参加人支部が結成後間もなく、かつ、同支部が行う団体交渉が円滑に進まない本件事情のもとにおいては、上部組織である参加人関東労組の役員が関与したからといって、参加人支部に独立性がないということはできない。
3 原告は、労働委員会が労働組合の資格審査について併行審査主義をとっていることをもって違法であると主張するが、右資格要件は、不当労働行為の救済命令を発するための要件であって、審査手続に入るための要件ではないと解すべきであるから、右主張は採用することができない。
三 争点3について
1 参加人らは、原告に対し、本件団交申入れをしたが、その後、右の件について事務折衝の名目での団体交渉も行われなかったことは、当事者間に争いがない。
ところで、本件団交申入れに係る第二工場移転に関する件とは、原告会社の草加第二工場が筑波工場に移転することに伴う、原告会社の実施計画を内容とすることは明らかであり、これからすれば、従業員の異動時期、異動対象者及び異動に伴う労働条件等についての事項を指すものであることは当然に予測することができるが、前記「前提となる事実」12に認定したとおり、八月二二日の第四回事務折衝においては、右の件は、原告会社側の説明では、九月から機械の一部が移動するが、工場移転はいつになるか見通しがつかないというに過ぎなかったのであって、右説明からして、少なくとも一部の異動時期が迫っていることが窺われ、このことと工場移転時期がいつになるのかについて参加人らが一層の関心を抱くのも当然のことと考えられ、しかも、右説明では、異動に関する労働条件の詳細については答えていないに等しく、また、異動対象者数も明確でないのであって、その結果、会社側の見解に対する参加人らの質問や意見表明、それに次いで行われるべき労使の協議はなんらなされなかったというほかない(この認定に反する<人証略>の証言は採用しない。)。
そうすると、参加人らの本件団交申入れの趣旨(議題・内容)は明らかというべきであり、右申入れを行う必要性もあったと認められる。
2 原告は、参加人組合との間で、事務折衝の名目で話合い(参加人組合からすれば団体交渉)を行うことの合意が成立しており、本件団交申入れに対しても、事務折衝の名目で話合いを行うことは拒否していない、と主張する。
証拠(<証拠・人証略>)によれば、佐々木課長は、一〇月一九日、参加人関東労組の岸本副書記長から本件団交申入書を手渡された際、同人に対し、「団体交渉ではなくて、事務折衝なら応ずる。」旨述べたことが認められる。
しかるところ、前記「前提となる事実」6、8の認定事実によれば、組合側としては、六月二九日に開かれた第一回事務折衝における組合側発言からも明らかなように、組合側の要求事項に関しては、通例どおり団体交渉を行いたい意向であったが、会社側があくまで事務折衝の名目での話合いを行うことに固執したため、早急に会社側との意見交換の機会を持つことに第一次的な意義を認め、やむなくこれに応じたに過ぎないものというべきであって、その後も団体交渉を求めずに事務折衝の名目で話合いを行うことに同意していたと認めることはできない。しかも、第一回から第四回まで開かれた事務折衝の内容をみると、会社側からなされた、参加人組合の組織及び内部事情に関する質問とこれに対する応答が中心を占め、組合側から、会社が不当労働行為を行っていることの指摘がなされたほか、六月八日要求事項等、労働条件の維持改善に関する事項については、会社側から一方的かつ簡単に結論的な説明・見解表明がなされるのみであり、これに対して組合側から、その具体的内容にまで踏み込んだ質問を発したり、意見を表明したことはなく、ましてや一定の合意形成に向けて労使双方が協議したこともなかった。したがって、右事務折衝は、文字どおり、団体交渉に向けての事前の予備折衝の域を出ないものである。
そうすると、原告会社と参加人組合が行った事務折衝の名目での話合いは、実質的内容からしても団体交渉に等しいものということはできず、組合側が、草加第二工場の移転の件という組合員の労働条件に直接的に影響を及ぼす重要な事項について、このような事務折衝でなく、正規の団体交渉を求めたことをもって、組合側に責任があるということもできない。
3 原告は、草加第二工場の異動対象者は、シリンダー部門の一種類であるCQ2の一部であって、その中に組合員がいるかどうか明らかでないから団体交渉事項になじまない、との趣旨の主張をする。
しかし、前記「前提となる事実」18のとおり、参加人らは、草加第二工場の従業員約二五〇名中、シリンダー部門の従業員は約二〇〇名であり、その中に一一名の支部組合員がいる旨を明らかにしている。のみならず、原告会社は、八月六日、関係部課長会議で、同年九月にシリンダー部門のCQ2の製造機械設備を筑波工場に移転し、これに伴い仕事に精通した社員数名とパート数十名を応援させる計画を決定したものの、八月二三日には、右移転計画を一旦中断することとしたが、平成三年五月一〇日に至って、同年六月初めからCQ2の機械設備を移転することに決定し、同月三日、転勤者として八名、応援者として四九名を選定しその異動を発令し、その後、平成六年一一月にシリンダー部門のCAの機械設備の筑波工場移転とそれに伴う異動を行った(<証拠略>)。
右認定事実から明らかなように、異動対象者は、時期を経て変遷するものであるし、個々の従業員も草加工場内部の部署間で異動することが予定されており、原告会社草加工場所属の従業員で組織される参加人支部とその上部団体である参加人関東労組が、草加第二工場の筑波工場移転に伴う従業員の労働条件の維持・改善について関心を抱くのは当然というべきであるから、これが団体交渉事項になじまないということはできない。
4 右認定した事実からすれば、原告会社は、参加人らの本件団交申入れを正当な理由なく拒否したものというべきであり、労組法七条二号所定の不当労働行為に該当すると認められる。
本件命令は、右団体交渉拒否の不当労働行為の救済として、今後このような行為を繰り返さないように留意することを記載した文書の掲示を命じているが、憲法二一条は、思想・信条・意見の表出活動の自由について規定しているのであり、ポストノーティスは、右の自由をなんら侵害するものではないから、憲法二一条に反しない。本件命令は、労働委員会によって原告の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為を繰り返さない旨の約束を強調する意味を有するに過ぎず、原告のいわば消極的な表現の自由を侵害するものでもなく、同種行為の再発を防止するための相当な措置であると認められ、労働委員会に委ねられた裁量の範囲内にあるというべきであるから、これをもって違憲・違法ということはできない。
四 結論
よって、原告の本件団体交渉拒否が不当労働行為に該当するとした初審命令を維持した本件命令の認定及び判断には、原告の主張するような違法はないというべきであるから、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 吉田肇 裁判官 梅本圭一郎)
《別紙一》
主文
一 被申立人エスエムシー株式会社は、申立人関東化学・印刷・一般労働組合および申立人関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部が、平成二年一〇月一九日付で申し入れた、草加第二工場移転に関する件についての団体交渉に応じなければならない。
二 被申立人会社は、本命令書受領の日から一週間以内に、五五センチメートル×八〇センチメートル(新聞紙二頁大)の白紙に、下記文書を楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の本社正面玄関および草加第一、第二、第三工場の従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。
記
平成 年 月 日
関東化学・印刷・一般労働組合
中央執行委員長 大山隆二殿
関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部
支部長 飯島和弘殿
エスエムシー株式会社
代表取締役 高田芳行
当社が、貴組合の申し入れた、平成二年一〇月一九日付議題についての団体交渉に応じなかったことは、不当労働行為であると東京都地方労働委員会において認定されました。今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を掲示した日を記載すること。)
三 被申立人会社は、前記各項を履行したときは、すみやかに当委員会に文書で報告しなければならない。